「桐(きり)」は、木材として様々な特性を持っており、箪笥や下駄、琴などの材料として利用されています。初夏になると枝先にたくさんの淡い紫色の花を咲かせ、その花や葉の意匠は日本の伝統的な紋章にも使われています。改めて見ると、桐は私たちの身近にある木だとわかります。
■成長が早く、美しい「桐」
桐は、ゴマノハグサ科キリ属の落葉高木です。
日本各地で植栽されており、福島県の会津桐、岩手県の南部桐などが有名です。
桐は生育が早く、20~30年で立派な大木になります。かつては、家に女の子が生まれると桐を植え、その子が嫁ぐときには大木となっている桐で箪笥を作り、嫁入り道具として持たせるという習わしもありました。
桐は切ってもまたすぐに伸びることから「切る・伐る」が名前の由来ともいわれています。また、木目が美しいので木目を表す「木理(もくり)」を「きり」と呼んだからという説もあります。
■桐の特性を生かした道具
・桐箪笥
桐は、ゆがみや変形の少ない材質で家具作りにはもってこいの木材です。しかも、木目が美しく、軽量です。
さらに、桐は湿気を通しにくい、虫がつきにくい、火に強くて燃えにくいなどの特徴があり、着物や貴重品の保管に最適です。総桐の箪笥は手入れをすれば何代にもわたって使えるといいます。また、昔の金庫の内部が桐でできていたのも、桐は焦げても中まで火が回るのは時間がかかり、中のものが燃えにくいという特性からです。
・桐下駄
桐の下駄は軽くて足さばきが良いものですが、優れた吸湿性とともに保温性もあります。そのため、夏は汗をよく吸い取って肌触りが良く、冬は冷たくなりにくいという特徴があります。
・箏(こと)の材料
箏の材料は桐です。桐の中でも寒い地方で育成された緻密で硬い材質のものが、音の響きや音質が良く適しているとされています。箏の長さは流派にもよりますが6尺(約182cm)。この長さの一枚板を取るためには何十年もかけて大きく育てた桐が使われますが、1本の木から使えるのは一面分くらいといいます。
■神聖な桐と「桐花紋」
古来、桐はめでたい瑞鳥である鳳凰の止まる木として神聖視されてきました。
平安時代には、桐の花と葉を意匠化した「桐花紋」は天皇家で「菊花紋」に準じる家紋とされていました。武士の時代となると「桐花紋」を下賜された有力武士たちが政権を握っていったことから、為政者の紋として定着するようになりました。
桐花紋にはさまざまな図案があります。一般的なのは、3枚の葉に花の数が3・5・3の「五三の桐」で、花の数が5・7・5に増えた「五七の桐」は、現在の日本政府の紋章となっています。その他には、五三の桐に丸枠を加えた「丸に五三の桐」、葉先や花先を尖らせた「五三鬼桐(ごさんおにきり)」、桐の葉や花を揚羽蝶のように図案化した「桐揚羽蝶(きりあげはちょう)」などがあります。
格式の高い桐花紋は一般に広まっていきましたが、その経緯には、興味深い話があります。
戦国時代の足利尊氏や織田信長に下賜されたのは「五三の桐」。豊臣秀吉は信長から「五三の桐」をもらいましたが、その後天皇より「五七の桐」を下賜されたので、そちらを好んで使ったそうです。配下にいる大勢の戦国武将にも、桐花紋を下賜したので桐花紋が一般に広がっていったと考えられます。こうして桐花紋が広がり過ぎると、秀吉は自分用に「太閤桐」というオリジナルの桐花紋を作成しました。
そんな中、徳川家康は「葵の紋」があるので桐花紋の下賜を断ったといわれています。