季節に合わせて着るものを変える「衣替え」。洋服も着物もその季節に合わせたものを着ますが、着物は、洋服以上に季節を繊細にとらえているようです。
■季節で決まる着物の仕立て
10月から5月は透けない表地に裏地の付いた「袷(あわせ)」、6月・9月は透けない表地に裏地なしの「単衣(ひとえ)」。7月・8月は透け感のある「薄物(うすもの)」というように決まっています。
でも、近年5月ともなれば夏のような暑さですから、袷を着て汗だくになるぐらいなら単衣を着てもよいという風潮も出てきています。
結婚式などの格式のあるところでは失礼に当たるので控えたいですが、ふだんのお出かけなら、臨機応変に楽しみましょう。
■一足先に身にまとう季節の柄
着物のおしゃれ心が最も表れているのが季節感を大切にした柄です。四季折々にふさわしい柄があり、それをその季節が来るのを待ちわびるかのように、少し早めに身にまとう。
そんな心配りが「粋」とされています。
寒の頃には椿や南天、梅をまとって春を待ちます。
早春には草木の芽吹きや蝶を、萌ゆく春には春草や花霞を、桜の気配を感じたら桜をまとって花の予感を楽しみます。桜が咲き誇る頃に桜を着るのは野暮。現実の花とは競わないのです。
そして、桜が咲けば着物の季節は初夏へ向かい、藤やあやめ、若葉の出番です。
夏は金魚や流水で涼しさを演出し、夏もそろそろ終わる頃には秋草模様が登場します。
やがて、深まりゆく秋を告げるかのように、菊、萩、紅葉、月や雁が続きます。
冬の声を聞けば枯山水や雪の結晶をデザインした雪輪。
新春には松竹梅や鶴亀といったおめでたい柄になります。
■小物使いで季節感を
さらに、着物だけでなく帯との組み合わせによっても季節の物語を作ることができます。
着物をたくさん持っていなくても、半襟や帯留めなどの小物でも季節感を出すことができます。
また、箪笥や押し入れの奥にしまわれていたおばあちゃんの着物が、世代を超えて今でも着用できたりするのも着物ならでの魅力です。古いものでも味があり、帯や小物の組み合わせで見違えることも。
着物初心者には、季節ごとの着物を揃えることはなかなかできませんが、まずは着用期間の長い袷と小物使いで着物の世界を楽しめるといいですね。