2025年02月08日

刺し子

「刺し子」といえば、布地に糸目が連なり、幾何学的な模様が美しく描き出された民芸品のイメージがあります。しかし「刺し子」はただ美しいだけでなく、人々の生きるための暮らしの知恵と工夫が詰まった実用的なものでした。いまは、美しい伝統手芸の技法のひとつとして愛用されている方や、作品作りを楽しんでいる方も多いようです。「刺し子」の魅力とは何でしょうか。

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■刺し子の歴史と目的
刺し子は、重ねわせた布に模様を描きながら細かく刺し縫いする伝統的な手芸です。江戸時代中期ごろに生まれたといわれていますが、全国各地で行われており、発祥の地はわかりません。広く知られているのは東北地方の技法です。
東北地方で刺し子が発展した背景には、布が貴重だった時代、寒冷地での寒さを和らげる保温のため、また作業着などを補強、補修するために刺し子が盛んになったといわれています。ひと針ひと針、手縫いで刺す刺し子には、限りあるものを大切にする暮らしの知恵と技術が息づいています。明治以降、衣服が入手しやすくなるにつれて、刺し子をする人は減っていってしまいましたが、民芸品として根強い人気があります。

■東北の「日本三大刺し子」
青森県津軽の「こぎん刺し」、青森県南部の「菱刺し」、山形県庄内の「庄内刺し子」が東北地方の日本三大刺し子と呼ばれています。

・青森県津軽の「こぎん刺し」
江戸時代の津軽藩では寒さ厳しい地方にもかかわらず、農民は麻しか身に着けることができなかったことから、麻布の粗い目を埋めるように細かく糸を刺して保温性を高めました。これが「こぎん刺し」のはじまりといわれています。傷んでしまった時にはあて布をして、刺し子を施すことで布を再生させました。

・青森県南部の「菱刺し」
青森県南部も寒さが厳しい土地柄です。麻布の裏地に綿布を付けて麻糸で刺したものが「菱刺し」のはじまりといわれています。
こぎん刺しと似ていますが「刺し目の数え方」が違い、こぎん刺しは、1・3・5・7...と縦糸の奇数目で刺すのに対し、菱刺しは2・4・6・8...と偶数目で刺すため横長の菱模様に仕上がります。

・山形県庄内の「庄内刺し子」
庄内刺し子は、藍染めの木綿布に白い糸を細かい針目で刺すのが特徴です。緻密な文様を描き出しつつ、布を補強し保温性を高めました。やがて、豊作や魔除け、商売繁盛といった願いや祈りが込められた装飾のためにも刺し子が施されるようになりました。

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■刺し子の模様
刺し子に用いられる柄は伝統的な模様だけあげても40種類はあり、幾何学模様が多いのも特徴です。布の補強のためにはある程度均等に刺す必要があり、全面に幾何学模様を刺すことで強度を高めました。代表的な模様に、七宝つなぎ、麻の葉、紗綾形(さやがた)、籠目(かごめ)などがあります。
江戸火消しの火消し袢纏にもこの技法が使われていました。今でも刺し子が施された剣道着や、刺し子織りの柔道着などに活用されています。

■刺し子と刺繍の違い
刺繍にはたくさんの種類や技法がありますが、装飾的に使われることが多いのに対して、刺し子は日々の生活に必要な機能を補うために発展したものです。
また、刺繍の糸は何本使って刺すかで、絵柄の細かい部分も表現できますが、刺し子の糸は基本的に糸がすでによってあり、しっかりとした一本の糸になっています。
また、刺し子を縫うときは縫いはじめや縫い終わり、糸替えのときに玉止めをしません。3針分戻り、重ね縫いをします。こうすることで糸が抜けない、ほつれない丈夫な刺し子となります。

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