日本人は自然現象に名前を付ける名人。風には「疾風(はやて)」「つむじ風」など、漁師や農家の人がつけた名が2000以上もあります。四季折々に吹く風の名前ばかりでなく、吹き方によってその名前もさまざま。まるでいろいろな役を演じ分ける役者のように多彩です。
あなたは、風の名前をいくつご存知ですか?
■四季折々の風の名前
地方によってもいろいろな名前があると思いますが、よく呼ばれる名前を挙げてみます。
【春の風】
・春一番 ・・・ 春の初め、その年に初めて吹く強い南風
・東風(こち) ・・・ 菅原道真の歌により春を告げる風として有名※
・貝寄せ ・・・ 春先に砂浜に貝を運ぶ風
※菅原道真が京都から大宰府へ左遷されるとき、庭の梅に「東風吹かば にほいおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」と詠んで別れを惜しみました。
【夏の風】
・薫風(くんぷう) ・・・ 初夏の新緑が香るような風。
・青田風(あおたかぜ) ・・・ 青々とした水田の上を吹きわたる風。
・盆東風(ぼんごち) ・・・ 夏の終わりに吹く東風。暴風雨の前兆。
【秋の風】
・野分(のわき) ・・・ 野の草を分けて吹きすさぶ強風。台風を含む。
・いなさ ・・・ 南寄りの暴風。大雨を伴い、風水害や海難を起こす恐ろしい風。
・金風(きんぷう) ・・・ 秋風のこと。稲穂をゆらす風。
・雁渡し(かりわたし) ・・・ 雁が渡ってくる頃の北風。
【冬の風】
・木枯らし ・・・ 初冬に吹く冷たい北風。木の葉を吹き落してしまうことに由来。
・おろし ・・・ 冬山を超えて吹き降りる冷たい強風。六甲おろしなどの山の名前が付く。
・空風(からっかぜ) ・・・ 冬山を超えて吹きつける下降気流で、冷たく乾いた風。関東・東海地方の冬の季節風。
■風の名前が表わすもの
台風と野分。同じ現象なのに印象が違います。表情豊かな風に、様々な言葉があてはめられています。
・荒れ狂う怒りの主
「嵐」「暴風」は、まさに怒りの主。荒れ狂う風を「狂風」「烈風」などといい、突然に吹く「天狗風(てんぐかぜ)」や烈しい「疾風(はやて)」は、「悪風(あくふう)」となって災害をもたらすこともあります。
タイフーンに漢字を当てはめた「台風」は、その痛々しい爪跡を想像させますが、昔ながらの「野分」には、自然と共存するかのような印象があります。
・優しく爽やかな表情
荒々しさが消え和やかに吹くと「和風(わふう)」になり、そよそよと吹く「微風(そよかぜ)」や清らかな「清風(せいふう)」は風が微笑んでいるようです。
さっとひと吹きする「一陣の風」や、強くても気持ちのいい「雄風(ゆうふう)」には凛とした姿が見えるでしょう。
・風の色は何色?
草木が動いて風を感じられることを「風の色」といい、吹いている様子はないけれど、秋の気配を感じるようなときを「色なき風」と表します。
「南風(はえ)」は夏の季節風ですが、梅雨時のどんより曇った日に吹くと「黒南風(くろはえ)」で、梅雨が明ければ「白南風(しろはえ)」です。
青葉の上を吹き渡る「緑風」も、強く吹けば「青嵐(せいらん)」となります。
・進むべき道に吹く風
船の進むべき方向に吹く「順風」「追い風」「時津風(ときつかぜ)」、その反対は「逆風」「向い風」「仇の風(あだのかぜ)」。
風は人生にも吹いているようです。