日本の食文化は、季節を感じながら、季節の味をいただくことを大切にしているので、いち早く季節のものを味わうことは大きな喜びです。
かつおの旬は年に2度。春から初夏にかけ、黒潮にのって太平洋岸を北上するかつおが「初鰹」。秋の水温の低下に伴い、三陸あたりの海から関東以南へ南下してくるかつおが「戻り鰹」です。餌をたっぷり食べている「戻り鰹」は脂がのっているのに対し、「初鰹」はさっぱりしているのが特徴で、旬の走りの「初鰹」は今も昔も人気の初夏の味覚です。
「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」とは、江戸中期の俳人・山口素堂(1642~1716)の作。目にも鮮やかな「青葉」、美しい鳴き声の「ほととぎす」、食べておいしい「初鰹」と、春から夏にかけ、江戸の人々が最も好んだものを俳句に詠んでいます。
旬の走りは珍しさが先行して値段も高めで、もう少し待てば盛りになり、味や値段も安定するのですが、それを待つのは野暮というもの。初物に手を出すのが粋の証だったのです。当時「初鰹」は、「まな板に 小判一枚 初鰹」(宝井其角/1661~1707)とうたわれるほど極めて高価でしたが、「初鰹は女房子供を質に置いてでも食え」といわれるほどの人気でした。
初鰹が支持されたもうひとつの理由が、初物の縁起の良さにありました。初物とは、実りの時期に初めて収穫された農作物や、シーズンを迎え初めて獲れた魚介類などのこと。初物には他の食べ物にはない生気がみなぎっており、食べれば新たな生命力を得られると考えられ、さまざまな言い伝えも残っています。
「初物七十五日」(初物を食べると寿命が75日のびる)
「初物は東を向いて笑いながら食べると福を呼ぶ」
「八十八夜に摘んだお茶(新茶)を飲むと無病息災で長生きできる」(新茶を贈る風習もあります)
初鰹も同様で、「初鰹を食べると長生きできる」とされ、大変珍重されました。江戸の初鰹は鎌倉あたりの漁場から供給されたため、松尾芭蕉(1644~1694)は「鎌倉を生きて出でけむ初鰹」と詠んでいます。
かつおのおいしい食べ方といえば「たたき」。
別名「土佐造り」といわれるように、高知の名物料理でもあります。
新鮮なかつおを皮付きのままおろした節を、表面だけ火が通るように炙り、冷水でしめます。藁を使って炙ると香りがよくなります。
水気を切って1㎝ほどの厚さに切り、塩少々をふって、手または包丁の背などを使ってたたきます。大皿に盛って、上から薬味とタレをたっぷりかけて食べますが、薬味としてはしょうが、にんにく、大根おろし、ねぎ、あさつき。青じそなど。タレにはレモンやスダチなどの柑橘系の酸味を利かせたポン酢や醤油ダレがよく合います。
かつおの「たたき」というのは、もともと包丁の背でたたいてから表面を焼いていたからだとか。現在は、焼いてからたたく、たたいてから焼く、焼いて切ってからたたく、全くたたかない、など様々な方法があるようです。
かつおのたたきといっしょに食べたいのが「しょうがごはん」。新しょうがの香りがさわやかなごはんです。
しょうがは皮をむいて千切りにし、油揚げと一緒にだし汁で煮ます。煮汁に米と同量になるまで水を足して炊き、炊き上がったら油揚げとしょうがをごはんにさっくり混ぜます。
根がまだ固くなっていないこの時季の新しょうがは、炊き込みご飯にピッタリです。