昔も今も祝いごとや祭りなどの時によく登場する餅。餅は稲の霊が宿るハレの日の食べもので、食べると生命力が与えられると考えられ、神様に捧げる神聖なものだったのです。
正月には鏡餅を飾り、雑煮をいただきます。実は、鏡餅を知ることでお正月の本当の意味がわかってきます。
元旦には「年神様」(としがみさま)という新年の神様が、1年の幸福をもたらすために各家庭にやってくるとされています。お迎えした年神様の依り代(よりしろ)、つまり居場所が「鏡餅」なのです。
年神様は祖霊神であり、田の神、山の神でもあります。そのため、子孫繁栄や五穀豊穣に深く関わり、人々に健康や幸福を授ける神様として、「正月様」、「歳徳神」(としとくじん)とも呼ばれて大切にされてきました。そもそも一連のお正月行事というのは、その年神様を迎え入れてお祝いし、たくさんの幸せを授けてもらうためのものなのです。
年神様は、新しい年の幸福や恵みとともに、私たちに「魂」を分けてくださると考えられてきました。「魂ってなに?」と思うかもしれませんが、「魂」とは、私たちの生きる力、気力のようなものです。
では、どうやって年神様から「魂」を分けていただくのでしょうか。年神様の「御魂」(みたま)は、年神様が依りつく鏡餅に宿るとされ、この鏡餅の餅玉を分けていただくことで「魂」をいただいたのです。
その年の魂となる「年魂」をあらわす餅玉は、家長が家族に「御年魂」「御年玉」として分け与えました。これがお年玉のルーツで、玉には「魂」という意味があります。
そして、いただいた「魂」を体内に取り込むための料理が「雑煮」です。ですから、お雑煮には必ず餅が入っており、お雑煮を食べないと正月を迎えた気がしないというのも当然なのです。
また、年神様に毎年分けていただく「魂」の数を数えれば年齢になります。母親のお腹の中にいるときにすでに魂があるから誕生時は1歳で、その後は元旦がくるたびにみんな一斉に年をとりました。それが「数え年」です。
さらに、鏡餅には「歯固め」という意味もありました。丈夫な歯の持ち主は何でも食べられ、健康で長生きできます。そこで、新年の健康と良運とさらなる長寿を願う行事を「歯固め」といい、固くなった鏡餅を食べました。現在の鏡開きが「歯固め」の儀式にあたります。そういえば、「年齢」という言葉にも歯の字が含まれていますね。
鏡餅が丸いのは、昔の鏡に由来します。
昔の鏡は丸い形をした銅鏡でした。天照大神から授かった三種の神器※のひとつであり、伊勢神宮をはじめ、鏡をご神体としているところもたくさんあります。
鏡餅は年神様の依り代ですから、ご神体としての鏡をお餅であらわし、「鏡餅」と呼ばれるようになったのです。
鏡餅の丸い形は、昔の丸い鏡を模した「魂」の象徴で、大小2段で月と太陽、陰と陽を表していて、円満に年を重ねるという意味も込められています。
※天照大神から授けられたとする鏡、剣、玉を指し、皇位継承の証として歴代天皇が継承している三種の宝物。
では、鏡餅はどのように飾ったらよいでしょう。飾り方や供える場所やタイミングについて、ポイントをご紹介します。 → 鏡餅の飾り方