蕎麦は、産地によって夏から秋に収穫されます。いずれも収穫したては新蕎麦ですが、一般に「新蕎麦」といえば、秋に収穫された蕎麦をさすことが多いようです。
緑がかった美しい色で、香りも良い秋の新蕎麦は、江戸の頃から人気の品でした。
新蕎麦は秋の季語でもあり、様々な句に詠まれています。
■秋蕎麦と夏蕎麦
蕎麦は種をまく時期によって「夏蕎麦」と「秋蕎麦」に大別されます。
蕎麦は、種をまいてから収穫までの期間が稲、麦などに比べ短く、種をまくと4~5日で発芽し、30~35日目頃に開花最盛期を迎え、70~80日で収穫できます。気候への適応性もあり、火山灰地や開墾地などのやせ地でもよく生育するので、短期間で収穫できる救荒作物でもありました。さらに土壌の乾燥に強く、吸肥性が強いなどの特徴もあります。ただし、霜には弱いので霜の降りる前に収穫します。
・秋蕎麦(秋新)
一般に蕎麦は秋に収穫され、秋の新蕎麦を略して「秋新(あきしん)」と呼びます。10月末ごろから出回る新蕎麦は、香り、色、味が優れ、粉に挽いても、貯蔵状態が良ければ変質しにくいという特徴があります。
・夏蕎麦(夏新)
夏に採れた蕎麦を「夏蕎麦」といい、夏の新蕎麦を略して「夏新(なつしん)」と呼びます。九州では4月上旬、北海道では6月下旬に種をまき、夏の高温下でもよく結実します。主に北海道で栽培され、牡丹蕎麦やキタワセ蕎麦が代表品種です。8月の終わりごろから「新蕎麦」のビラを店頭で見ることがありますが、この頃の蕎麦は「夏蕎麦」です。
■江戸っ子の初物好き
「散れかしと思うは蕎麦の花ばかり」(古川柳)
蕎麦好きが秋新を待ちかねる気持ちが、古い川柳にも表れています。
蕎麦屋の中には往々にして客引きのために「夏の」の二文字を付けず、早々と「新蕎麦」の貼り紙を出すところもあったようです。
元禄時代に発刊された「本朝食鑑(ほうちょうしょっかん)」には、「少しでも早く出回るそばを珍重し、手に入れたがる。時期はずれのものは実が十分入らず味も良くないのに、ただ早く出回るのを賞味・珍重するのである」というような記述があります。
江戸っ子の初物好きは「新蕎麦」にも発揮されていたようです。
■蕎麦の効用
蕎麦は、白米や小麦粉に比べて良質なたんぱく質を多く含みます。ビタミンB群やミネラルも豊富。食物繊維も豊富に含まれています。
大きな特徴としては多量の「ルチン」を含みます。ルチンはポリフェノールの一種で、 毛細血管を強化し、血管を拡張する事で血流を良くする作用があります。記憶細胞の保護、活性化にも有効といわれています。
蕎麦を常食とする山村に長寿の方が多いといわれるのは、このような蕎麦の栄養が一役かっているのかもしれません。